Vol 21 沖縄式ハピネス〜芸術家と食卓の切っても切れない間柄〜

 

沖縄のオジィ、オバァは食卓で「ぬちぐすいやっさー」とよくもらすそうだ。

“ぬち”とは「命」、“ぐすい”とは「薬」。“やっさー”は「だね」。

つまり、「ぬちぐすい」とは沖縄の方言で《命の薬》という意味だそうだ。けれども、本当の薬ではない。身体にいいものを食べたとき、心が洗われるような風景に出会ったとき、いい音楽を聴いたとき、沖縄の人々はこんな風に表現する。

長寿で有名な沖縄の人々がよく食べる海草、黒糖、豆腐、緑黄色野菜は沖縄の豊かな自然がもたらす「ぬちぐすい」そのものである。手つかずの自然、おおらかな暮らしぶりも、人々の元気の源となっている。

印象画派の巨匠モネもまた《沖縄式ハピネス》を実践した芸術家のひとりである。 
クロード・モネがかつて暮らしていたジヴェルニーの家を訪れると、クロームイエローに彩られた大食堂の立派さに感銘をうける。モネは彼の友人や伝記作家などによると、大変な大食漢だった上、鋭い味覚の持ち主だったようだ。ジヴェルニーの食卓には、ルノワール、ピサロ、クレモンソーなどの友人をよく招き、自らの手で猟肉や家禽を捌き、調理してもてなしたそうだ。

アルザスのフォアグラ、ペリゴールのトリュフを好み、魚も好きで、自宅の池にいるカワカマスがとりわけお気に入りだったという。当時のモネの館周辺は、今よりももっと野生に近く、きのこがふんだんに育成し、カワカマスが泳ぎ回るようなところだったようだ。モネが「水の庭」にくらべて、「花の庭」をあまり描かなかったのは、当時、モネが好きだったハーブや新鮮な野菜を育てる畑に過ぎなかったからという逸話もある。

モネは、若き日の仲間や後輩画家たちを自宅に招き入れ、思い出話に興じ、浮世絵のコレクションを披露し、庭を散歩し、そしてお気に入りの料理で客人をもてなしたのだろう。ジヴェルニーの館は、そのような「豊かな生活者」としてのモネの姿を想像させてくれる。

命感じる風、躍動する緑。巨匠の類まれな創造性は、ジヴェルニーの豊かな自然、その恵みから作り出される健康的な食卓が支えていた。もしも、モネが沖縄の言葉を知っていたとしたらなら、きっと、「ぬちぐすいやっさー」ともらしたに違いない。