Vol 15 若冲とデジタル

 

伊藤若冲は、江戸時代の中期、18世紀の京都に活躍した画家である。20代の後半、狩野派の絵師について絵を学ぶのだが、それは、日本や中国の古い絵をひたすら書き写すというものであったという。あるとき、若冲は中国画の模写をきっぱりと止め、自宅の庭で鶏を飼い、その生態、そして、花や樹、鳥や虫の観察に明け暮れるようになる。

他人の眼で見たものに満足せず、自分の眼で見たまま感じたままを描く。そんな若冲の驚くべき観察力が独特の絵を生んでいったのだ。

日本美術の愛好家であり若冲のコレクターとして知られる、ジョー・プライス氏は、「動物のようにうごめく葉の一枚、一枚がじつにエキサイティング」と述べ、描かれた自然のオブジェが放つ躍動感に驚きを隠さない。

また、若冲は、動植物の超細密描写を、画面を埋め尽くすまで無限に増殖・反復させている。それは、まさに、現代のコンピューター・グラフィックで多用されるデジタル技法であり、まるで200年以上も前に現代の世界を予見していたかのようだ。

鳥獣花木図屏風と呼ばれる屏風画は、最近、宇多田ヒカルのプロモーション・ビデオでおなじみとなったが、象や孔雀、虎、鹿といった楽園の動植物が、8万個にもおよぶ鮮やかなモザイク模様のドット(点)の集まりで作られている。まさにパソコンのない時代に、絵筆ひとつでCGを描いたような驚異的な力作である。 

そんな常軌を逸するほど奇抜な作風は、江戸絵画の正統派からは異端や奇想といった扱いをされ、若冲の作品の大半は結局お寺に寄進されることになったため散逸を逃れたというから何が幸いするかわからないものだ。

代表作「動植綵絵」30幅はその後宮内庁の所有となり、現在、皇居外苑の三の丸尚蔵館で公開されている。江戸時代に描かれた、写実的で、色鮮やかで、デジタルな若冲の世界を、一度鑑賞してみてはいかがだろうか。

※三の丸尚蔵館展 「花鳥−愛でる心、彩る技 若冲を中心に」9月10日(日)まで