Vol.11 アートと実用の「美」  −生活具にみる実用の「美」−
 

空気が違う。
優雅な気持ちになるというか。
ずっと居たくなる空間だ。

東京、駒場の閑静な住宅街にある日本民藝館は、日常具など生活の中の美を説いた柳(やなぎ)宗悦(むねよし)らが民芸運動の本拠として設立された。民藝館本館は蔵造り、旧柳邸(西館)は武家屋敷のような概観で、伝統的な和風建築の中に和室、ダイニングルーム、書斎、シャワー、地下室があり、和洋折衷を実現している。

民藝館設立70周年の節目に廃屋となっていた旧柳邸の改築修復工事を指揮した建築家は言う。「柳邸を改築していると、だんだん設計者の意図がわかって感心してしまう。風と光の取り込み方がすばらしい。風が気持ちよく通り抜け、紙障子を通して入る光で、室内の工芸品が最も美しく映える。」

柳邸や民藝館に陳列されているのは、せんべいの壷、船箪笥、茶筒、鉄瓶、野良着といった日常の生活用具だ。本質的な美は美術品のように鑑賞を目的に作られた作品でなく、無名の職人が無心に作った実用的な工芸品が持つ「用の美」「無心の美」のなかにあると考えた柳は、南は沖縄から北は北海道のアイヌの民具まで、日本の広域にわたって郷土色豊かな生活具を収集した。

時は大正時代末期、西洋から取り入れた産業文明が成熟期を迎え、機械製品が生活に入り込み、手仕事は次第に後退していく時代であった。日本美術と西洋美術の双方に高い鑑賞眼を持ち合わせていた柳は、在来の民芸のなかに、温かく、優しさに満ちた美を発見した。どんな偉大なアートも、日々のよろこびや悲しみなど、人の心の小さな動きから生まれている。いいものほど日常づかいでばりばりと活用する。大量生産品、規格品にあふれた現代社会にあっても、民藝館に陳列された手仕事の日常雑器から伝わるつくり手のぬくもりが気持ちよい。

日本民藝館創設70周年記念特別展「民藝運動の巨匠」は9月24日(日)まで